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倉本 聰さん12の語録──『海の沈黙』公開によせて反骨の創作者に迫る

2024.12.16

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「富良野の森はまさに天国。森を歩きながら、木の声を聴くのが日課です」

Q4 日課にされていることはありますか?

A. 僕の家は森の中にあるのですが、足腰の調子がいいときは犬と一緒に森の中を彷徨(さまよ)って、森の声を聴いています。喋るんですよ、木は。匂いでコミュニケーションを取ろうとするのですが、木がすごく匂う朝があるんです。何か喋りたいことがあるのでしょうね。でも、僕もいつでも聴こえるわけではありません。こちらの精神状態がすっきりしていて、よほどいいときじゃないと聴こえないですし、そもそも木に気に入られないと喋ってくれないですから。ピタッと波長が合うときがあって、そんなときは声が聴こえるんですね。木だけではなく、鹿も喋ってくれますよ。うちの庭には毎朝、鹿が来る。雄が一頭のときもあれば、母親と子どもの鹿とか。5、6頭で来て喋りまくってくる日もあります。そうかと思えば、今日は喋りたくないという感じの日もあるし。自然はやはり面白いです。

Q5. 森はどんな存在ですか?

A. うちの森は天国です。この夏は酷暑だったので、さすがに富良野の街も暑かったのですが、僕のところの森は常に24度でした。窓に貼りつけてある表の気温計で測ると、いつも24度。沢の水が冷えた蒸気を運んでくれるからなのだと思いますが、本当に過ごしやすかった。今年はどんぐりもやたらと落ちてきたし、森からたくさんの贈り物をもらっています。

1977年42歳のとき、富良野に移住したのですが、最初の数日は怖くて眠れなかったんです。夜中に一人で寝ていると、闇の中のいろいろな音が聴こえてしまって。動物の鳴き声や木の枝が折れる音、葉っぱが擦れる音とかね。それが3日目くらいから不思議にストンと落ちて、ものすごく深い眠りにつけるようになった。後から思ったのですが、あれはおそらく自然にテストされていたのでしょうね。こんなところに一人でいるけれど、本気なのか?と覚悟のほどを試されていたわけです。自然に受け入れてもらってからは、まったく怖くなくなりました。やはり、一番怖いのは人間ですよ。

Q6. 木の声は、私たちにも聴こえるのでしょうか?

A. こちらが木に対して心からの興味を持たなければ、声を発してくれないし、何も聴こえてはこないですよね。植物は、動物とはまた別の生き物ですから。うちの庭は4ヘクタールあるのですが、僕はその森をとても大事にしていて、それは森にもわかっていると思う。こちらが心を開いたことで、木の声が聴こえてくるのでしょう。よほど知り合いにならないと難しいので、旅人には聴こえないかもしれません。

ときには姿を変えていろいろ語ってくれるときもあります。40年ほど前、うちの窓のすぐ外に樹齢100年以上の大きな白樺の木が立っていたんですが、氷点下30度のある冬の晩、凍結してできたその木の裂け目に人間の顔が現れまして。どう見てもロシア人なんですよ。それで僕はその人にイゴール・カバノビッチという名前をつけました。昔のことをいろいろ教えてくれましたね。だって、僕らよりずっと前からそこにいて、人間よりたくさんの知識を持っているわけです。教えを乞いますよ。3年間ほど冬の朝は姿を現して、話をしてくれたのですが、あるとき木が寿命になって倒れてしまって。温暖化でマイナス30度を超える日もなくなり、残念ながら、イゴールさんにはそれ以来会えなくなってしまいました。彼らの声を耳にしようと心から思えば、植物に対する態度が変わりますよ。そしたら、明治神宮外苑のイチョウを切ろうなんて考えにはなりません。


Q7. SNSはどのような存在だと思われますか?

A. 僕はパソコンもできないし、SNSもやりません。この間、僕が主宰する富良野自然塾の若い連中に生成AIについて講義してもらったのですが、まったくわかりませんでした。そういうものを知らなくても生きていかれるんですよ。今は会議中でも、すぐにスマホを触って調べ始めますよね。でも、人間のコミュニケーションを中断してまでその場で調べる必要ってありますか? 情報って、そんなにいるんですか? 今、人間がいちばんやらなければいけないのは排除することじゃないでしょうか。嫌な情報や噂話が溢れているSNSに影響を受けすぎて、鬱になってしまう人も多いですよね。

このところ急増している闇バイト事件も、機械化が作用していると僕は思っています。その根底には、間違いなく社会の希薄さがありますよ。依頼されて、2015年にオレオレ詐欺など特殊詐欺への注意を呼びかける直筆の書を富良野署に送ったのですが、そこに「卑劣な犯罪を許してはいけない。だまされるのはあなたの恥でもある。子どもの声ぐらい間違えるな」と書きました。やはり、それは希薄すぎますよ。家族団欒の場でのスマホいじりなんて、僕の息子だったら叱り飛ばします。近くにいるのなら、顔を見て話せばいいじゃないですか。家族には、スキンシップが何より大切なんです。いらない情報は垂れ流しで入ってくるのに、本当に必要なことがわからなくなってしまっている。だから僕はSNS禁止論を提唱しているわけです。まあ、とはいえ、富良野自然塾の若者たちも、僕のそんな話は無視して皆、使っているのですけれどね(苦笑)。

Q8. コロナ禍の数年間をどう受け止めていますか?

A. 女房も僕も、今まで新型コロナウイルスにはかかっていないんですよ。予防接種もしていましたが、何より自然の中に住んでいますからね。人ともそんなに会わないですし。でも、あのコロナ禍の数年間を警告と受け止めるか、災難と受け止めるか、それだけで見えてくる世界が全然違うでしょうね。nature,naturalからの警告だと、僕は思っています。単なる草木が生えている“自然”ではなく“天為=天のなすところ、本来の生き方”からの警告ですよね。

撮影/伊藤彰紀〈aosora〉 取材・文/小松庸子

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