「蔦重は、誰かのために頑張れる人。人間としてリスペクトしています」

実は横浜さんも2024年秋に、自身が原案を担当し、高校の同級生・岩谷翔吾さん(THE RAMPAGE)が書き下ろした小説『選択』を出版しています。「二人三脚で創作しながら、出版まで4年かかったので、本作りの大変さは、自分も少しわかるつもりです」。
今回、蔦重という役を通して得られるであろう本作りやプロデュースのヒントを生かして、今後も岩谷さんと本を出していきたいという横浜さん。普段から、オファーがあった映画や出演が決まった映画の原作小説を読んだり、映画になりそうな小説を探したり、選んだりしているため、本を手にする機会は多いと話します。
「自分関連の作品が多くなってしまうのですが、凪良ゆう先生の『流浪の月』はすごく印象に残っていますし、『正体』を書かれた染井為人先生の作品も好きです」
ちなみに “プロデュース欲” もあるそう。
「まだ単なる願望ですけど『選択』を本だけで終わらせたくないなと考えていて。下の世代のためにも、自分で映像作品のプロデュースもしていけたらと思っています」。
エンタメの素晴らしさを作品を通してしっかりと伝えたい
蔦重役にふさわしい、表現に対する情熱が言葉の端々に滲む横浜さん。文化が栄えた江戸時代中期について尋ねると、「戦もないですし、蔦重としては、いい時代だと感じています」と答えてくれました。
「もちろん理不尽なことはあるし、身分制度が厳しくて不自由なことも多いけれど、この『べらぼう』に登場する江戸の人々は、みんな強い意志を持っている。情報が氾濫して、自分を持てずに流されてしまう人も多い今の時代と違って、それぞれが自分をしっかり持っている気がします。当然、電話もメールもないから、人との生の交流がより大切になる。僕もその時代を生きてみたいなと思いました。この作品を観てくださる方々にとっても、身近に感じていただける世界観になっていると思います」
横浜さんは、こうも語ります。
「なんとなくですけど、この時代の人々は何か楽しめるものを欲していて、蔦重はそれを感じ取ったからこそ、本や絵を送り出したいと思えたのかなと僕は考えているんです。そういう意味では、コロナ禍の頃と似ている気がします」
「自分も蔦重のようにエンターテインメントをプロデュースしていきたい」

「この作品のお話をいただいたのは、コロナ禍が落ち着いて日常が戻ってきた頃なんです。そんなこともあって、この『べらぼう』を通して、エンタメの素晴らしさをよりしっかりと皆様に伝えたいと思いました。エンタメ業界で頑張っている人たちに勇気を届けたいという気持ちもあります」
そう話す横浜さんが一つの作品と1年以上向き合うのは、特撮ドラマ『烈車戦隊トッキュウジャー』以来になります。
「そこで芝居の楽しさを知り、この世界で生きていこうと決めたので、10年経った今、同じくらい時間をかけて一つの作品に取り組めることに、運命を感じますし、役者として幸せなことだなと思います。皆様に愛される蔦重を作って、責任と覚悟を持って作品を届けていきたいです」
物語としては今後、蔦重がプロデュースしていく江戸文化を代表する人物や作品が登場。最晩年になぜ東洲斎写楽を手がけたのか?という謎にも迫るとのことです。
「歌麿の美しい美人画、それから当時の人たちも驚いた大胆な作風の写楽にも興味があります。蔦重が絵を扱っていくのはこれからなので、自分も楽しみにしています」
ハードなスケジュールの中、疲れも見せず、涼しげにそう語る横浜さん。実力派俳優としてさらに輝きを増す28歳が “江戸を豊かにした男” の波乱万丈の生涯をどう生きていくか、ぜひご注目を。
役作りに際し、映画『HOKUSAI』で晩年の蔦重を演じた阿部 寛さんにも話を聞いたという横浜さん。「『流星らしく蔦重を世に広めてくれ』といっていただきました。阿部さんの蔦重も参考にしながら、自分にしかできない蔦重を生きられたらと思います」。
横浜流星さん(よこはま・りゅうせい)1996年神奈川県生まれ。2011年に俳優デビュー。近年の主な主演作は、映画『ヴィレッジ』『春に散る』(2023年)、一昨年に続いて報知映画賞主演男優賞を受賞した『正体』(2024年)など。映画『国宝』が2025年6月6日に公開予定。