〔特集〕思い出の地、パリで独占取材 進化し続けるピアニスト角野隼斗(後編) 2024年世界デビューを果たした、話題のピアニスト・角野隼斗さん。東京大学大学院卒業という異色の経歴、ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト、YouTubeチャンネル登録者数143万人を超えるCateen(かてぃん)、シティソウルバンド「Penthouse」のメンバー──、ジャンルや国を超え人々を魅了する姿を、大学院生時代に留学していたパリで追いかけました。
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パリの夜、満席の会場がその音に酔いしれた ──
“サル・ガヴォー”でのソロコンサート
角野隼斗さん(すみの・はやと)1995年千葉県生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2018年、東京大学大学院在学中にピティナピアノコンペティション特級グランプリ受賞。2021年、ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。2024年3月、ベルリンに本拠を置くソニークラシカルと日本人4人目の世界契約。同年10月、世界デビューアルバム『Human Universe』を発表。オリコン週間総合アルバムチャートで7位を記録するなどクラシック音楽作品として異例のヒットとなっている。
パリコンサートの衣装は「アルマーニ」。思い出の場所では「E S:S」のコートを。 「留学中何度も訪れた場所。自分がそこに立つとは想像もしていませんでした」

パリ8区、オフィスと高級住宅が立ち並ぶ界隈にある「Salle Gaveau(サル・ガヴォー)」。1905年からの歴史を持つパリの音楽の殿堂で、歴史的建造物にも指定されている。舞台と客席が近いので、演奏中の繊細な指の動きがよく見える。
120年の歴史を刻む「サル・ガヴォー」は、パリのリサイタル会場としては頂点ともいえる場所。角野さんにとっては、留学中に学生料金を活用して何度も足を運んだ場所です。
リサイタルが行われたこの夜、満席のフロアの中央には、フランスを代表するピアニストの一人、ジャン=マルク・ルイサダ氏の姿もありました。
「ここで彼のリサイタルを聴いて本当に美しくて、お会いしたいと思いました。先生のことは子どもの頃から存じ上げていました。『スーパーピアノレッスン』というNHKの番組に出られていましたから」。
それから、角野さんはルイサダ氏に師事することになりました。
コンサート2曲目から早くも「ブラヴォー!」の声が

舞台上での角野さんのスピーチはフランス語。その美しい発音に「ブラヴォー!」の声が上がり、彼のパーソナリティにも観客は魅了された。
コンサートの数日前に発売されたアルバムタイトルにもなった角野さん自身の作曲作品 「Human Universe」。それが2曲目で披露されると「ブラヴォー!」がこだまし、ホールには高揚感が満ちあふれました。

オーケストラのダイナミック感をピアノだけで表現する角野さんならではの「ボレロ」も圧巻。クラシック、ジャズ、古典と新作の垣根をゆうゆうと飛び越えて繊細華麗に繰り広げられる角野ワールドに、観客は酔いしれ惜しみない拍手を送っていました。
「大変な熱気で、たくさんの方が来てくださって、とても嬉しかったですし、パリで演奏するときにはいつも特別な思いがあります」と角野さん。
フランスの名ピアニストである恩師、ルイサダ氏絶賛の演奏
終演直後、ルイサダ氏が満面の笑みをたたえて本誌に語ってくれた感想が、まさにこのコンサートを象徴しています。
「私たちは魅了され、感嘆しました。あまりに素晴らしいので、彼は私たちを別の惑星への旅に連れ出してくれたようでした。もっとも、彼自身が別の惑星から来たピアニストだからです。彼の演奏には、並外れた深さとユーモアがあり、唯一無二。現在、彼のようなピアニストはほかにいません。常に進化し、絶えず変化しています。教養があり、常に高いインスピレーションを持ち、深みを備えています。人柄もとても魅力的で、感動的です。彼のような人は、素晴らしい演奏しかできないのです」(ルイサダ氏)
終演後、ルイサダ氏(左)、同じく有名ピアニストのマルク・ラフォレ氏(右)とフラッシュを浴びる。全世界デビューアルバムへサインを求める人の列がホールの外までのびていた。
新しいスターの誕生。パリの聴衆たちがその瞬間に立ち会った記念すべき夜でした。