米倉 新型コロナウイルスにもiPS細胞を使って研究をされているんですか?
山中 はい。このウイルスに感染すると肺の細胞がダメージを受けるので、iPS細胞から作った肺の細胞にウイルスを感染させて病状を再現し、効果のある薬を探す研究が行われています。
米倉 そのほかでは、どのような病気に現在使われているのでしょう。
山中 例えば、がん治療の研究では、iPS細胞から免疫細胞を作ると、免疫細胞を若返らせ、元気にすることができますし、大量に作ることができます。その免疫細胞でがん細胞をやっつけることができます。
認知症、パーキンソン病、網膜・角膜の病気などに対する研究もかなり進んできていますし、この5年、10年の間には多くのものが完成するはずです。自分にも間に合うように頑張れ!と、自分自身に発破をかけています(笑)。
米倉 山中先生との共同研究グループでほかにも研究が進んでいるのは......?
山中 慶應義塾大学でも臨床試験が進んでいますし、神戸も盛んなエリアですね。2014年には世界で初めて、神戸の髙橋政代先生のグループがiPS細胞から作られた網膜の細胞を使った手術を行いました。執刀医は神戸アイセンター病院の栗本康夫先生という眼科のドクターXなんです。
米倉 変なことお聞きしていいですか?
山中 どうぞ(笑)。
米倉 裏切りや情報漏れ、詐欺師のような人が近づいてくるといったことは現実にあるものなのでしょうか?
「1000倍返しだ!」の次の舞台はiPS細胞研究所?
山中 iPS細胞ができてからの15年ほどの間に、ドラマより面白いんじゃないか、と思うようなことが何度もありました。『半沢直樹』の作者である池井戸 潤さんと親しくさせていただいているのですが、「これ、絶対に面白いから小説にして!」といってるぐらいです(苦笑)。
米倉 役作りの参考に、今度ぜひ取材させてください。でも、足の引っ張り合いや驚くことがたくさんある中で、それを乗り越えていらしたモチベーションは何なのでしょう?
山中 それはやはり患者さんに、そして医学研究に貢献したいという想いです。僕は医学者であることに誇りを持っています。短い間でしたが、研究者になる前は整形外科医でもありましたし。
ちょうどその頃、父が58歳で病死したのですが、結局、父には対症療法しかしてあげられませんでした。手術がそれほどうまくないと自分では感じていたこともあり、それから大学院に入り直して研究を基礎から学んだわけです。研究は、治せない人を将来治せる可能性がありますし。残念ながら、今は直接の治療には携われていませんが、もしかしたら1人の研究者、1つのグループの研究が1万人、いえ、10万人の患者さんを治すこともあり得ますから。
米倉 周囲の期待が大きすぎて重圧を感じることはないですか?
山中 確かに、iPS細胞ができてからかなりのプレッシャーはありますが、でも誰にも期待されないのもつらいですから。「患者さんに届けよう!」という想いで、踏ん張っています。