“漢方”で幸せホルモンが増加。寝つきが良くなる？うつ病患者の「睡眠改善」の報告も

メカニズムの詳細を明らかにした2人の研究者

そして、この分泌メカニズムの詳細を明らかにしたのは、オキシトシンを研究していた福島県立医科大学の前島裕子博士と下村健寿博士です。筆者が大変興味深く感じたのは、元々2人は、漢方薬の研究者ではなく、ある偶然によって、この研究成果が生まれたということです。

その内容を説明するにあたって、まずはオキシトシンの作用について振り返りましょう。

オキシトシンは、女性が妊娠や出産、授乳するときに多く分泌されるホルモンとして知られ、食欲や睡眠、また記憶などにも関わる脳の視床下部で分泌されます。近年は、不安軽減作用など、さまざまな効果が注目され、薬剤として投与することも検討されてきましたが、消化酵素で分解されてしまうことから、そのまま内服しても効果が出ないことがわかっています。


前島博士と下村博士の2人は、体内でのオキシトシン分泌機能を高めるような薬剤や食品がないかを調べていたところ、漢方薬のなかで加味帰脾湯のもたらす効果が、オキシトシン分泌によって得られる人体への影響と類似していることに注目したのです。

そこでラットを使った実験を行った結果、脳のオキシトシン分泌に関わる神経細胞（オキシトシン神経細胞）が、加味帰脾湯の投与によって活性化することが確認されました。

また、その神経細胞を取り出し、加味帰脾湯を加えてオキシトシンの分泌量を調べたところ、加えなかった場合と比べて分泌量が高まることもわかりました。ほかにも、オキシトシン神経細胞の神経シグナルなどを検証した結果、加味帰脾湯は、視床下部のオキシトシン神経細胞に直接作用して活性化させる、あるいはオキシトシン受容体を活性化させることで、その分泌を促していることが確認されたのです。